過失割合を考える:左折巻き込み事故
左折する車と、直進するバイクとの事故です。
一般的に信じられている過失割合は次のようなものです。
(参照:http://amami.rindo21.com/ks_bike/22/220001.html)
1.直進バイクと端に寄せた左折車の交通事故
左折車は左折の前に予め左端にクルマを寄せていた場合です。
過失割合の基本
バイク:40
クルマ:60
2.直進バイクと端に寄らなかった左折車の交通事故
左折車は左折の前に予め左端にクルマを寄せていなかった場合です。
過失割合の基本
バイク:20
クルマ:80
これまでは以上のようにバイクの過失割合が低いものとされていましたが、はたして本当にそうでしょうか。左折の前に車を端に寄せていてもすり抜けようとするバイクはすり抜けていきます。事故が起きたときにはすり抜けバイクは車の寄りが不十分だったと言うでしょう。側方間隔がゼロに近くてもバイクの幅さえあれば寄りが不十分という言い分です。車からすれば認めがたい言い分ですが、従来の過失割合にとらわれる限り、車側は妥協を余儀なくされてしまいます。そこでこのケースでの過失について一から考え直してみましょう。
まず、この事故形態もいくつものパターンに分けることができます。
1、車が直進バイクを右から追い越しすぐに進路を塞ぐように左折したケース。
2、車が直進バイクに追いつき、右側に並走、バイクが十分後方にいることを確認せずに左折したケース。
3、車にバイクが追いつき、左側を並走、車がそれに気付かずに左折したケース。
4、車の死角をバイクが走行し続け、車が気付かずに左折したケース。
5、バイクが十分な車間距離を取っておらず、さらに車の左折に気づくのが遅れ左側の空間に逃げ込んだケース。
6、先行の車が左折するのを認識していたにもかかわらず、バイクがその前に左からすり抜けようとしたケース。
この中で「1、車が直進バイクを右から追い越しすぐに進路を塞ぐように左折したケース。」の場合の過失割合はもちろん車:バイク=10:0です。バイクにはこのような危険な運転を予測する義務はありませんし、避ける方法はありません。「2、車が直進バイクに追いつき、右側に並走、バイクが十分後方にいることを確認せずに左折したケース。」の場合はバイクは自分が速度を落とすことで避けるという方法がありますが、車の側に大きな過失が発生するでしょう。個人的な感覚ですが、車:バイク=9:1くらいでしょうか。この場合はバイクが車と比べると交通弱者であるという点から弱者保護の概念を取り入れ、車:バイク=10:0とすべきでしょう。
3のケースからはバイクにもそれなりの過失が発生しますが、簡単な方から考えたいので「6、先行の車が左折するのを認識していたにもかかわらず、バイクがその前に左からすり抜けようとしたケース。」のケースを見てみましょう。6のケースは車間距離不保持に加えて、左折車両の左折妨害となります。道路交通法第34条6項において「左折又は右折しようとする車両が、(略)、それぞれ道路の左側端、中央又は右側端に寄ろうとして手又は方向指示器による合図をした場合においては、その後方にある車両は、その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き、当該合図をした車両の進路の変更を妨げてはならない。」と先行車両の右折左折を妨げないことが要求されているのです。ですから6のケースでは信頼の原則から車に事故を予測する義務もなければ、回避する方法はありません。過失割合は車:バイク=0:10となります(なるべきです)。「5、バイクが十分な車間距離を取っておらず、さらに車の左折に気づくのが遅れ左側の空間に逃げ込んだケース。」のケースはバイク側の車間距離不保持が原因です。6のときと同様の理由でバイク側に過失があります。この場合も過失割合は車:バイク=0:10となります(なるべきです)。5や6の場合はバイクの方が明らかに過失が多いので、弱者保護は適応されません(されるべきではありません)。ですから過失割合に修正はありません。
「4、車の死角をバイクが走行し続け、車が気付かずに左折したケース。」では左折車両の指示機が適切に出ていれば5のケースと同じ状態と考えられます(車:バイク=0:10)し、指示機がちゃんと出ていなければそれなりの過失が車にも発生するでしょう(車:バイク=1:9~5:5)。
「3、車にバイクが追いつき、左側を並走、車がそれに気付かずに左折したケース。」とでは左折する車にも確認する義務があるため車には過失が発生します。しかし本来は走行していてはいけない場所をバイクが走行していることも考えればバイクにも過失があります。道路交通法を守る限りは走行車両の左側や四角部分(死角は車間距離も不十分)には車両は存在しないはずなのですが、安全性や法律を無視したすり抜けバイクが存在するという事実があるために車側の安全確認がより重要になっているということを認識する必要があります。また交差点付近は追い越しも追い抜きも禁止されていますから、最初に前方を走っていた車両が有利になるでしょう。細かな条件により過失割合の判定はまさにケースバイケースとなるでしょう(車:バイク=1:9~6:4)。
以上、6つの細かなケースを見ました。この中の過失割合は法律面なども考慮した上での私の個人的な判断ですが、ケースによって大きく変わることには賛同していただけると思います。
次に実際の事故でのさらなる問題点を考えます。実際の事故では車とバイクで言い分が異なったことも多いでしょう。バイクはケース2を主張するが、車はケース4(指示機をつけていた場合)を主張する場合などです。この場合過失割合は車:バイク=10:0と0:10と両極端なものになります。バイクが車の指示機を見落としていた場合、バイクは「車は指示機をつけていなかった」という主張になりますし、車が指示機をつけたつもりでいた場合はこの逆です。証拠や第3者から事故の形態が特定できれば良いのですが、特定できなければ双方の主張の間を取ることになります。するとどちらかに理不尽な判定となってしまうのです。このケースの場合では車:バイク=5:5となり、交通弱者保護の観点を働かせれば6:4~3:7となってしまいます。交渉力次第になるでしょう。これを1のケースや6のケースのような場合にまで行うのは無理筋ですが、モンスター○○が増えている昨今ですから、実際にも起きていそうな気がしてしまします・・・
車からすれば「巻き込み事故」、バイクからすれば「巻き込まれ事故」になりますが、「巻き込まれに行った事故」もかなり多いはずです。「巻き込まれに行った事故」は予防できる事故です。特にすり抜けをしないことが最大の予防でしょう。