過失割合を考える:信頼の原則
予測責任と回避責任(信頼の原則とは)
交通事故の際、「動いている場合には10:0にはならない」という話を聞いたことがある方は多いと思いますが、これは本当は嘘です。
事故には予測責任と回避責任があります。予測すべき状況で予測しなかった(予測責任における過失)、気づいていたけど適切な回避を行わなかった(回避責任における過失)となります。
このように言うとあらゆる事故は予測可能であるということになり、ここで過失を追及されるのですが、すべてのドライバーがすべての事故を予測しながら運転したらどうなるでしょう。「青信号だけど対向の右折待ちの車が急発進するかもしれない」、「交差している道路から信号無視の車が突っ込んでくるかもしれない」と止まって、本来、優先でない他の車を先に行かせなければならなくなります。そのようにして道を譲られた右折車もこの停止した直進車が再び急発進するかもしれないと考え、動けなくなります。どの車も動けなくなってしまうのです。他にもあらゆるケースで運転ができなくなってしまいます。
このようなことを防ぐために各種の法律があるのです。「青信号直進車は最優先。右折車両は直進車の進路を妨害してはいけない」、「先行車両の右折、左折を妨げてはならない」、「赤信号は必ず止まらなければいけない」など。このように相手が法律を守ってくれることを信用する上で交通が成り立つのです。
ですから誰が考えても確実に事故になるような動きをしたり、そんなタイミングで急に動き出すことはないと期待して走行してよいと司法は認めています。これを「信頼の原則」と言います。このキーワードで検索されるとより多くの情報が得られるでしょう。「信頼の原則」が成り立つケースでは相手が法規を破った行動をとることを予測する義務はありません。ですから先に述べた「予測しなかった」という過失はなくなります。この上でさらに回避すべき手段がなければ回避義務における過失もありませんので、過失は全くないことになります。これに基づき「信号無視」「センターラインオーバー」「後ろからの追突」では過失が10:0が基本となっています。ただしこの場合も回避できる可能性が十分あったのにしなかったら過失が問われますので優先車両だからといって注意が散漫になってはいけません。判例分析の中の裁判所の判断はこのような考えが基になっているのです。
ただし、信頼の原則が成り立たない場合もあります。
1.行為者自身が交通 規則に違反し、それが事故発生の原因となっている場合。
2.相手方の交通規則に違反した行動を容易に予見できる場合。例えば歩行者が酔っ払っていることが十分認識されていたようなとき。
3.道路その他の状況から交通 事故の発生のおそれが高い場合。例えば雪道で滑りやすい路面であったとき。
4.相手方が幼児、老人、身体障害者等の場合。これは常識的ではない行動を取ることが前もってわかるため。
ただし違反があっても事故原因となっていないときは信頼の原則が成り立つこともあえいますし、相手が老人や幼児であっても状況によっては信頼の原則がなりたつこともありえます。最近、信号無視の老人の自転車を避けてトラックの運転手が死亡した事件で老人の過失が認められていますから、ケースバイケースです。弱者であっても過失が多ければ過失はしっかりと認定されます。
予測して事故をあらかじめ回避する(予見義務を果たす)ことは(法律の範囲で)必要です。わざわざ危険を冒すような運転は利口とは言えません。